おだやか日記

認知症の診療~実例その10~

おだやか診療所です。

本日は認知症の診療の実例その10です。

症例

80代前半の男性。もともとアルツハイマー型認知症の診断でアリセプト5㎎内服していた。ここ最近、近所の家を周りチャイムを押すといったことが頻回となり、家族が疲労困憊となったため訪問診療導入となった。

初診時、男性の私とはあまり会話せず、女性の看護師とは笑顔で会話をしていた。また、ここ最近甘いものが好きになり、ときに食べすぎるようになったとのこと。診察所見は特に問題はない。血液検査も特に問題はなかった。もともとは、とあるお堅い職業の方である。

アセスメント

発症当初はアルツハイマー型認知症の診断で間違いないと思われる。短期記憶力の低下も存在する。しかし、「甘いものを最近好きになったこと」「徘徊というよりは常同行動を思わせる行動」「女性に対し男性よりも機嫌が良い(もともとはお堅い職業の方であり、女性と男性で対応に差が出ることは、だらしくなくなっていると解釈できる)」といった症状や、意味性認知症の症状もあり、診察時点では前頭側頭型認知症の症状が前面に出ていると判断。

治療

アリセプトは即中止。ウインタミンを朝6㎎昼6㎎夕6㎎処方。様子を見ながらやや増量し、最終的には朝8㎎昼8㎎夕8㎎である程度の落ち着いた。

しばらく訪問診療を続けていたが、主介護者が他にも介護を抱えることになったため、老人ホーム入居となり診療終了となった。

治療2

訪問診療終了となって約2週間後、いきなり電話がかかってきた。「老人ホームに入居したその日に暴れてしまい、30分で飛び出してしまいました。ホームの主治医も、治療できないといっています。家に戻ってきますので、もう一度診療してもらえませんか」とのこと。

まさに環境変化によるダメージ(リロケーションダメージ)である。あわてて訪問診療を行ったが、診察最終日とは別人のようになっていた。常に怒っており、取り付く島もない。セロトニン過剰状態であると考えられた。それにしてもリロケーションダメージがここまで大きい人は初めて見た。ウインタミンを朝12㎎昼12㎎夕12㎎、ニューレプチル朝3㎎夕5㎎、セロクエル昼12.5㎎、寝る前12.5㎎処方。主介護者の疲労は極限に達しており、このままでは両倒れになると考え、当時訪問診療していたグループホームに空室があったため施設庁にお願いし、グループホーム入居となった。

入居当初はやはり手がかかるということで、グループホームの職員さんも大変な思いをしていた。しかし、日が経つうちに、みんながその人に関わったことで、職員がその人のことを好きになってきた。そうすると本人も気分が良くなり、薬も少しずつ減らすことができた。途中で肺炎にもなったが入院することなく抗生剤の内服と在宅酸素療法、脱水時の点滴のみで回復。回復後なぜかすっかり普通の人になり、ウインタミン朝4㎎夕4㎎のみを残して他の薬を切ることができた。もちろん肺炎から改善後も経口摂取を行っている。栄養場外も非常に良好である。これは、職員さんにはきつかったと思われるが、肺炎治療中も絶食にしなかったためと考える(無理に食べさせる必要はなく、アイスクリームや粉砕した氷などを舌の上に乗せるよう指示)。

まとめ

一筋縄でいかなかった症例である。この症例からはリロケーションダメージと介護スタッフの力の2つを学ぶことができた。リロケーションダメージは、ただ環境が変わったというより、本人の意に反して環境変化が起こったときに生じるのだろう。そして、一度生じたダメージは、元の環境に戻っても消えないこともある。

そして、介護の力。本人と介護職員との間に信頼関係ができた時、BPSDに対する向精神薬を減らすことができる。しかし、BPSDが激しいときには介護対応困難なことも多い。そのため、必要最低限の薬でBPSDを減らし、その後介護対応にてBPSD改善をはかり、様子を見ながら薬を減らしていくという方法も良い方法である。現在、三大認知症を根治する治療法は存在しない。そのため、医療と介護の両輪で、本人が安心できる環境を作ることが大切となる。

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