おだやか日記

認知症診療に取り組む理由

おだやか診療所です。

本日は当院が認知症の診療に力を入れる理由について記事にしたいと思います。

本格的に認知症の診療に取り組み始めたのはかれこれ数年前のことになります。当時、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)の訪問診療を担当することになりました。そのころはまだ認知症の診療を全く知らず、「訴えのほとんどは物忘れだろう」「物忘れがあればアリセプトを出しておけば大丈夫だろう」と考えていました(当時抗認知症薬はアリセプトのみでした)。

 

ところが、実際に診療を始めると、施設の職員から聞く訴えに「物忘れ」などはありませんでした。ほとんどが、「介護を拒否することが多く困っている」「入浴を勧めてもなかなか入浴しない」「ほかの入居者さんに暴言や暴力を・・・」といった内容でした。完全に予想が外れました。

 

これは困った、ということで様々な認知症の医学書を買い、勉強を始めました。勉強していくうちに、認知症は大雑把に言えば「アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、血管性認知症」の4つが中心であることが分かりました。それぞれの認知症の特徴的な症状もわかってきました。しかし、認知症について書かれた本のほとんどはそこまでで止まっており、肝心の薬物療法についてはほとんどわかりませんでした。

困った時に思い出したのは、研修医の時のことでした。内視鏡の検査の際に、動かないよう押さえておくことが研修医の仕事だったのですが、ある時ふと「力で抑えるのではなく、握手をしてみよう。そして安心できるような声かけをしてみよう」という考えが浮かびました。早速やってみると、力で抑えているときと比べ、患者さんの苦痛の表情は少なくなり、内視鏡検査も早い時間で終わりました。

 

というわけで、患者さんに対し笑顔で接すること、診察時になるべく笑ってもらうようにすることを心がけました。このような診察をすることにより患者さんは徐々に落ち着き、いつしか「暴言、暴力、介護拒否・・・・」といった訴えはなくなりました。めでたしめでたし。とはいきませんでした。その理由ですが、当時診療を行っていたグループホームは職員の質が大変高いところであったため、このような非薬物療法はすでに毎日実践されていました。つまり、このグループホームでは職員がしっかりと対応し、非薬物療法が実施されていた環境であるにもかかわらず、「暴言、暴力、拒否・・・」がある入居者さんがいたということになります。

 

診察を続けていくうちに、脳出血で入院していた入居者が退院してきました。入院前はアリセプト10mgを内服していたひとです(入院前は他の医師が診察していました)。退院後診察することになり、アリセプトを再開するうえでまず3mgを処方しました。2週間後5㎎に増量する予定です。しかし、アリセプト3㎎の時点で、介護拒否などの症状が出始めました。さらに、脳出血により入院前と比べADLも下がっており、グループホームでみるのは不可能とされました(先ほども書きましたが職員の質が非常に高い施設ですので、その職員が無理ということは他のグループホームでも無理だと感じました)。

その時思い出したのは、他の患者さんで、かつてアリセプト3㎎を開始したときに易怒性が出てしまい、アリセプト継続を断念した患者さんがいると聞いたことでした。また、3㎎の時はそうでなくても、5㎎に増量すると易怒性などが出る患者さんもいました。そこで、「増やしてダメなら減らしてみればいいのでは?」と考えました。

まず、3mgから2mgに減らしてみました。易怒性や拒否などは減ったが、元気がなく、やはり介助が難しいとのことでした。ただし、アリセプト3㎎のときは介護しやすいと。そうであれば、間をとって2.5mgを試してみよう(これは当時診療についてくれていた看護師さんの意見です)ということになりました。アリセプト2.5mgにしたところ、施設の職員から、「今の状態なら引き続きグループホームで見ていくことができます!」とうれしい意見を聞くことができました。アリセプト2.5㎎で、患者さんが自分でできることが増え、椅子から立ち上がろうとするときも「トイレに行きたい」などの意図が分かるようになり、介護しやすくなったとのことです。患者さんが自分で歯磨きをしているところを、たまたま訪れていた家族がみて、泣いて喜んでいたそうです。

 

さて、上記の経験から、認知症の診療、特に認知症の薬物療法の肝は、「患者さんに合った薬を、患者さんに合った量で処方する」ということを学ぶことができました。その後は、「患者さんに合った薬を、患者さんに合った量で処方する」を心がけることにより、認知症になってもその人らしく過ごすことができるような診療を行ってきたつもりです。

 

認知症の診療に力を入れる理由ですが、いまだに「物忘れ=認知症=アリセプト」といった処方が多いことです。過剰な量を内服することにより、その人らしくない易怒性、暴言、暴力などがでてきます。そして、本人のみならず、介護者も疲弊します。そのような診療を変えていき、その人らしく、最期まで暮らせるようにできること、これが当院のミッションの一つとなります。

 

 

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